【センサー銘柄特集】社会の進化を担うキーデバイスと関連企業の戦略

自動車の自動運転化や工場のスマート化、そして社会全体の脱炭素化。
今、世界はDXやGXといった大きな変革のうねりの中心にあります。
これらの潮流の根幹を支え、物理世界のあらゆる情報をデータへと変換するキーデバイス、それが「センサー」です。
かつては単なる部品であったセンサーは、今やAIやIoT技術と融合し、モノの目や耳として機能する"知能"を持つ存在へと進化を遂げました。
自動車の安全性を飛躍的に高めるADASから、生産性を最適化するスマートファクトリー、効率的なエネルギーマネジメントまで、その応用範囲はあらゆる産業に拡大し続けています。
本記事では、この巨大な成長市場において、独自の技術や戦略で存在感を示す国内企業に焦点を当て、その強みと将来性を探ります。
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株式会社キーエンスは、工場の自動化に不可欠なFAセンサーや測定制御機器の開発・販売を手掛ける企業です。
1974年の設立以来、製造業の生産現場が抱える課題に対し、革新的な製品で応え続けてきました。
同社の最大の強みは、営業担当者が顧客のもとへ直接足を運び、課題解決策を提案する独自の直販体制にあります。
この体制によって顧客の潜在的なニーズを深く掘り起こし、それを基に「世界初」「業界初」となる付加価値の高い新商品を企画・開発するという好循環が、競争優位性の源泉となっているのです。
また、AI搭載の画像センサーのように、最先端技術を積極的に取り入れた製品開発力も同社の特徴と言えるでしょう。
これらの高精度なセンサーは、製造ラインの自動化や品質管理の高度化に大きく貢献しており、世界中のものづくりを支える重要な役割を担っています。
今後、世界的に製造業の合理化や省エネルギー化への需要はさらに高まると予想されており、同社の技術が活躍する市場が拡大していく可能性があります。しかし、事業の根幹が企業の設備投資に依存するため、世界経済の動向や通商問題といった外部環境の変化は、事業上のリスク要因として注視が必要でしょう。
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1921年設立の三菱電機は、社会インフラから宇宙開発まで手掛ける総合電機メーカーです。
多様な事業の中でも、工場の自動化を担うFA事業や自動車の進化を支える自動車機器事業ではセンサー技術が根幹をなしており 、長年の技術力を基盤に社会の高度なニーズに応えるソリューションを提供しています。
同社の技術は、FAと自動車分野で重要な役割を担っています。FAシステム事業では、工場のスマート化構想「e-F@ctory」を推進。
自動車機器事業では、ADASに不可欠な高精度センサーやECU²の開発に注力しています。
さらにAI技術も活用し、センサーデータから付加価値の高いソリューションを生み出しています。
将来に向けては、独自の成長戦略「循環型デジタル・エンジニアリング」を推進。
これは顧客の現場データをデジタル空間で分析し、新たな価値を創出して社会課題の解決に貢献するモデルです。
自動車の電動化や製造業のスマート化といった市場の潮流を捉え、このデータ駆動型アプローチにより、さらなる事業成長を目指しています。
一方で、事業運営上のリスクも存在します。
特に自動車機器事業では素材・物流費の高騰や半導体需給逼迫が経営課題となっています。
過去にはこれらの要因で減損損失を計上した実績もあります 。
主要市場の景気変動や技術のコモディティ化も無視できず 、これらリスクへの柔軟な対応が今後の成長の鍵を握るでしょう。
>>三菱電機についてもっと詳しく:インフラから人工衛星まで──三菱電機の「総合電機」戦略はどこへ向かう?
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1949年設立の株式会社デンソーは、世界有数の自動車部品メーカーです。
その事業は多岐にわたりますが、事業はサーマルシステム、パワトレインシステム、モビリティエレクトロニクス、エレクトリフィケーションシステム、先進デバイス、非車載事業と多岐にわたります。
このうち、先進デバイスやモビリティエレクトロニクスといった事業区分では、ADやADASに関連するセンサーや半導体の開発を手掛けています。
また、強みはトヨタグループを筆頭に国内外のメーカーと築いた揺るぎない事業基盤です。
この広範な顧客網とグローバルな供給体制が、ADAS普及や自動運転の高度化で増加するセンサー需要の取り込みに寄与すると考えられます。
さらに「安心」分野の取り組みの一つとして「交通事故死亡者ゼロ」を目指しており、車両周辺の画像センサー開発や、ドライバーの安全運転支援システムに関する実証実験等を進めています。
長年培ったECUなどの制御技術と最先端のセンシング技術を融合したシステム提案能力が、同社の競争力の一つになっていると見られます。
ただし、部材価格の高騰や半導体不足などのサプライチェーン問題は、安定生産を脅かす課題です。
加えて、特定地域での販売動向といったマクロ経済の変動や、製品保証引当金が示す品質関連コストも無視できません。
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1959年に設立されたSMC株式会社は、FAに不可欠な空気圧制御機器の分野で世界的なシェアを誇るリーディングカンパニーです。
同社の事業は自動制御機器の単一セグメントですが、その製品群には空気圧機器のほか、センサーなども含まれており、工場の自動化システムにおける"神経網"として重要な役割を担っています。
また、同社の強みは半導体や自動車、食品、医療など、極めて多岐にわたる産業に顧客基盤を築いている点です。
この多様な収益源は、特定業界の景気変動に対するリスクを分散させています。
加えて、世界中に張り巡らされた生産・販売網も、各地域の自動化ニーズへ迅速に対応する上での強みの一つと考えられます。
さらに、SMCは単に製品を供給するだけでなく、顧客のCO2排出量削減に貢献する省エネ製品や、生産ライン全体の空気圧を最適化するソリューション提案にも注力しています。工場のIoT化やスマートファクトリー化といった市場の変化に対応した研究開発にも取り組んでいます。
同社の業績は、主要顧客である半導体や自動車業界の設備投資動向に大きく影響を受けます。
これらの業界における需要の停滞は、事業の成長を鈍化させる可能性があります。
加えて、グローバルな事業展開に伴う為替変動リスクや、人件費などのコスト上昇も継続的な課題と考えられます。
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1935年に世界初の磁性材料「フェライト」で創業したTDKは、総合電子部品メーカーとして世界をリードしています。
その事業は多岐にわたりますが、ICTやEXといった社会課題解決と事業成長の機会を捉える上で、「センサ応用製品」は注力する領域の一つです。
この分野では、スマートフォンやウェアラブル端末、自動車などに不可欠なMEMSセンサーや磁気センサーなどを開発しています。
また、同社はM&Aを積極的に活用し、センサー事業を強化してきました。
特に、MEMSセンサー技術を持つ米InvenSense社の買収は、センサ応用製品の領域における同社の技術ポートフォリオを拡充させる戦略的な動きでした。
同社のMEMSセンサーはウェアラブルや自動車、ゲーム機向けで販売が増加しています。
これにより、材料技術という従来の強みに最先端のセンサー技術が融合されています。
さらに、今後のDXの潮流は、同社のセンサー事業にとって大きな追い風です。EVやADASに加え、各種IoTデバイスの普及に伴い、高性能センサーの需要は一層高まることが予想されます。
そんな中で、材料から応用製品まで一貫して手掛ける総合力が、同社の強みと考えられます。
一方で、主力であるICT市場や自動車市場の需要変動は、業績に直接的な影響を及ぼす可能性があります。
加えて、技術競争の激化や、買収した事業の収益性なども、継続的な経営課題と言えるでしょう。
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1951年設立のミネベアミツミは、ボールベアリングなどの超精密機械加工技術を原点とし、M&Aを通じてモーター、半導体、センサーなどを手掛ける総合精密部品メーカーへと進化を遂げてきました。
同社は、多様な技術を融合させる「相合」を経営戦略の核に据え、他社にはないユニークな価値創造を目指しています。
同社の強みは「8本槍」と称される8つのコア事業にあります 。
ベアリングやセンサー等の多様な技術を組み合わせ、部品供給に留まらない高付加価値なソリューション提案を実現。
この多角的な事業ポートフォリオは、特定市場の需要変動に対するリスク分散にも繋がっています。
さらに、センサー事業の強化に向けて、サーミスタに強みを持つ芝浦電子の買収手続きを開始するなど、積極的な動きを見せています。
このM&Aは、EVやFA、ヘルスケア分野でニーズが高まる温度・湿度管理の領域において、同社の技術・製品開発機会の創出に繋がる可能性があります。
既存のモーターや半導体技術との「相合」による、新たな高付加価値製品の創出が期待されるでしょう。
しかし、M&A戦略は、買収後の統合プロセスが円滑に進まなければ、期待したシナジー効果を発揮できない可能性があります。
加えて、HDD関連部品のように特定の市場動向に業績が左右される事業も抱えており、原材料価格の高騰や為替の変動といった外部環境の変化も、継続的な経営上の課題と言えます。
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1975年設立の日本セラミック株式会社は、セラミック技術を基盤とした各種センサーの開発・製造を主力とする電子部品メーカーです。
人の動きを検知する赤外線センサーや、自動車の障害物検知に使われる超音波センサーなどを中心に、その製品は家電、車載、セキュリティといった幅広い分野で活用されています。
同社は、電子部品メーカーとして培ってきた技術的ノウハウ、人的ノウハウ、および国内外での生産ノウハウを活かした製品開発を行っています。
また、センサ素子やセラミック素材を利用した応用製品の開発や新材質の開発等も進めています。
顧客企業と詳細な仕様を合意のうえで製品を生産出荷しており、高品質な製品の提供に努めています。
また、グローバルに生産・販売拠点を展開し、世界中の市場に製品を届けています。
さらに、今後の事業機会として、ADASの普及に伴う車載向け超音波センサーの需要拡大が挙げられます。
加えて、世界的な省エネ・脱炭素化の流れは、エアコンの効率的な運転を可能にする赤外線センサーや、EV・産業機器の電力制御に不可欠な電流センサーの市場拡大に繋がる可能性があります。
しかし、同社の事業運営にはリスクも伴います。
主要な供給先である自動車や家電市場の生産動向は、同社の業績に直接的な影響を及ぼします。
海外に生産拠点が集中しているため、特定の地域の地政学的情勢や自然災害、為替レートの変動なども、事業の安定性を左右する潜在的なリスク要因として考えられます。